昔、ドッペルゲンガーを見た

そっくりさんなどではあり得ない。二十数年経った今でも「あれは誰だったのか」と不思議に思う。

 当時勤めていた会社は1階に喫茶店などが入ったビルの4階にあった。その〇〇という喫茶店はビルの入口を入ってすぐの所にあり、暗い色のガラス越しにレジや中の様子が見えた。マスターの他はウェイトレスの女性が一人働いているだけだった。ビル内で働く人達はお昼にこの喫茶店から出前を取る人が多く、私たちが”〇〇のお姉さん”と呼んでいたウェイトレスがよく出前の品を持って来たり、あとで食器を取りに来たりしていた。

ある日、社外に用があり、エレベーターを待っていた。エレベーターの扉が開くとそのウェイトレスが乗っていた。上の階に出前を届けてきたのだろう。「こんにちは」と挨拶し、一緒にエレベーターを待っていた隣の会社の女性と共に乗り込んだ。1階に着いたとき、隣の会社の人と私は降りたがウェイトレスは降りなかった。きっと地下に出前の後の食器を取りに行ったのだろうと思った。1階には2か所出入り口があり、隣の会社の人は左の出口へ。私は右側の喫茶店〇〇の横の出口へ向かった。が、喫茶店の横を通ったとき何気なくレジの所を見てギョッとした。あのウェイトレスの女性が立っていたのだ。私は頭の中が真っ白になり、夢遊病者のようにフラフラとそのままビルを出た。

あのとき、すぐにお店の中に入って確認していれば。。。と後悔したが、私は何か突発的な事が起こったときに、即座に適切な行動がとれるタイプではない。会社に戻ってこの話をしても、「きっと双子なんだよ~」などと相手にしてもらえず。どうしても気になって、一緒にエレベーターに乗った隣の会社の人にも「〇〇のお姉さん、乗ってましたよね。1階で降りなかったですよね。」と確認したほどだ(変な人だと思われただろう)。ウェイトレス本人にはそんな気味の悪いことを訊ねてみるわけにもいかない。レジに立っていたあの人は一体誰(何?)だったのだろう。