エルダーフラワー・コーディアル ~ 幸せな夏の日の記憶

匂いや味が特定の記憶を呼び起こすことはよくあるらしい。私の場合、エルダーフラワー・コーディアルとイギリスの夏が結びついている。

 

1980年代に一年程イギリスのニューカッスルで語学留学していたことがある。通っていた語学学校は教師や職員と生徒との距離が近く、家庭的な雰囲気だった。語学留学といっても英語は後付けの理由で、とにかくイギリスに長期滞在したかっただけなんだけど、私の地味な人生の中で間違いなく一番楽しかったと言える、幸せをかみしめながら過ごした一年だ。

 

ニューカッスルイングランド北部なので、夏でも「暑い」というほどの日はほとんどなかった(夏休み中は大陸に旅行してたけど)。同じ家にホームステイしていたフランス人は、通学途中に街中の温度計を読み上げて「18℃!こんなの夏じゃない!」などと文句を言うのがお約束になっていたが、暑さが嫌いな私にはむしろ快適だった。

 

そんな初夏のある日、先生達の中でも特に教え方が上手で、私が大好きだった先生が生徒達を昼食に招待してくれた。イギリスのサンデー・ランチ(or ディナー)定番の「ローストビーフヨークシャー・プディング」と一緒に出されたのはエルダーフラワー・コーディアルという飲み物だった。炭酸水で割って飲むと花の香りがして、なんてロマンティックな飲み物なんだろうと思った。

これは先生が庭のエルダー(西洋ニワトコ。日本でニワトコといえば、今ではハリー・ポッターの杖の材料として知られているかも)の花で作ったもので、エルダーフラワーに水、砂糖、レモンを加えて作ると教えてくれた。イギリスでは人気の飲み物で、炭酸水で割ったものもスーパーなどで普通に売られているし、エルダーフラワー味のヨーグルトなどもある。

 

最近は日本でも手に入るようになり、ごくたまに買って飲むことがある。おいしいけど、少し薬臭い癖があるように感じて、「メリル(先生の名前)のはもっと自然で優しい味だった」と比べてしまう。実際は、あの時一度飲んだきりの味を本当に覚えているのか自分でも疑問だ。年月を経て記憶が美化された部分もあるのかもしれないが、エルダーフラワー・コーディアルを飲むと、先生の家の明るい陽の入る部屋でみんなで食べた昼食と、茶色い瓶を得意げに掲げて見せてくれた先生の姿を思い出す。エルダーフラワー・コーディアルは、あの夏の日とセットになって私の記憶に刷り込まれてしまっているのだ。 

 

~ エルダーフラワー・フレーバーの物、いろいろ ~ に続く

有機コーディアル エルダーフラワー 500ml

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