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「わたしはこうして執事になった」 / ロジーナ・ハリソン

アスター子爵夫人付きメイドとして仕えた35年の日々を記した「おだまり、ローズ」の著者、ロジーナ・ハリソンが5人の男性使用人仲間の経験談聞き書きした、お屋敷奉公人の世界、第二弾。田舎の労働者階級の少年が雑用係などの下働きから(途中で転職した一人を除き)どうやって執事になったのか。裏話満載で、ドラマ「ダウントン・アビー」や映画「ゴスフォード・パーク」が好きな人にもお勧めだ。(イギリスでの出版は1976年)

 

お屋敷のスタッフは会社のようなひとつの組織。それがうまく回るか否かはキャプテンである執事にかかっている。雇い主が使用人に依存するようになるというのもわかる気がする。チャールズ・ディーンはニューヨークで顔見知りの花屋に「あなたがお仕えしている奥様方は、旦那様はしょっちゅう替えるけど、執事は絶対に替えないのね」と言われたそうだ。

 

アスター家に51年間仕え、クリブデンのリー卿と呼ばれた伝説の名執事エドウィン・リーをはじめとして、名家やイギリス大使館で仕事をした人達の話だけあって、どのエピソードも面白い。

例えば、戦時中チャーチル首相の週末の館が空爆にさらされる恐れがあるときは、ジョージ・ワシントンが仕えていたディッチリー・パークに司令部を移すのが日常になっていたそうだ。すべて極秘で、警護の兵士も窓に目張りをしたバスに乗せられて、どこに来たのかわからないようにしていたという。

苦労話の中で印象的だったのは、狐狩り用の赤い上着の洗濯の話だ(ジョージ・ワシントン談)。これはとびきり高価なのにもかかわらず、一度着ただけで泥はねだらけになったりする。普通に洗うと生地が黒ずんでしまうので赤い染料で色を戻すのだが、乾いたときにまだら模様になっていやしないかと気になって、夜中に起き出して様子を見に行ったりしたという。たかが洗濯でなんという苦労!

王室(特にエリザベス皇太后)ファンのピーター・ホワイトリーが、1953年にバッキンガム宮殿の子供部屋付き下男の募集に応募し面接を受けた話も面白かった。出された昼食が最低だったとか。ウィンザー城に招かれた主人のお供で1週間滞在したときも、使用人の部屋のレベルは低かったようだ。

 

ホワイトリーの時代にはすでに二度の大戦を経験し、大勢の使用人を抱える屋敷の運営は困難な時代になっている。ロジーナ曰く「カントリー・ハウスでの活気に満ちた生活も、その格式と洗練とともに失われました。一部の建物は美術館として残ってはいるものの、どれも霊廟のように生気が感じられない抜け殻ばかり」

現在、アスター家のお屋敷クリブデンはホテルになっている。たとえ霊廟でも(ホテルだから、そこまで抜け殻感はないだろう)見てみたいものだ。いつの日か泊まることができるとしたら、「おだまり、ローズ」とこの本をもう一度読み返してから行こう。 

わたしはこうして執事になった

わたしはこうして執事になった

 

  

おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想

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