外国で”両手で握手”するリスク

ひと昔前までは、選挙運動中しか目にすることがなかったように思う”両手で握手”。アイドルの握手会か何かから広まったのか、少なくとも芸能人の間では一般的になっているようだ。ファンにとってその方が嬉しいのは理解できるが、個人的には媚びた感じがあまり好きになれないし、もし自分が出した片手を(好きでもない人に)両手で包まれたら気持ち悪いと思う。生理的にダメ。でも私が日本人と握手する機会は皆無だから、まあどうでもいい。どんな握手をしようとその人の勝手だ。両手でしたい人はすればいいと思う。日本国内なら。

 

芸能人が海外に出かけるテレビ番組で、初対面の現地の人と両手で握手する場面を見ることが多い。そのたびに、なんとも言えない違和感を覚える。単に見た目が変というだけでなく、こういう握手で相手にどんな印象を持たれるんだろうと気になってしまうのだ。

 

アジアでの握手事情は知らないが、少なくとも西洋では”感極まって”というのでもない限り、普通両手で握手はしないはず。胸を張って片手を出し、目を合わせてするものだ。日本の芸能人式に両手ですると、どうしても軽く腰を曲げる態勢になり、目を合わせるには下から見上げる形になりやすい。目を合わせるどころか、握手しながら頭を下げる人もいる。”失礼”とか”マナー違反”とまでは言えないにしても、ぺこぺこしているというか、卑屈というか、そんな風に受け取られるんじゃないかと、他人事ながらヒヤヒヤする。

 

日本では美徳とされる謙虚さや腰の低さが外国でも通用するとは限らない。初対面で下手(したて)に出ると舐められることもある。姿勢や目の合わせ方、声の出し方など、他人のちょっとした仕草から細かい情報を一瞬のうちに読み取って、無意識に自分の態度を調整するのは人間の本能だと思う。国や文化、個人によって、露骨だったり表には出さなかったりと程度の差はあるだろうが。  

 

握手は日本にもともとあった風習ではないのだから、本家本元の西洋で握手するときには向こうのやり方に合わせた方が無難なのではないだろうか。誤解されたり、下に見られたりするリスクを負うよりは。郷に入っては郷に従え、だ。ただ、そんな事情を認識した上で、それでも断固として両手で握手するというのなら、それもありかもしれない。そこまで確固とした信念を持っての行動なら、それも肯定的に伝わる確率が高くなるのではないかな、と。

 

余談ながら。。。

私はイギリス好きなので、テレビ欄で「イギリス」という文字が目に入ると、とりあえず録画しておくことが多い。この間、お笑い芸人のサンドウィッチマンがロンドンに行く番組を(部分的に)見た。その中で、外国にはほとんど行ったことがないという二人がインディペンデント紙の元編集長に会う企画があった。出会ったときに、まず伊達が両手で握手。元副編集長はたぶんそれに合わせたのだろう、左手を軽く添えた。次に富澤が握手する様子は見切れていた。

別れ際にもう一度、頭を下げて両手で握手する伊達。その後の富澤の様子を見て、はっとした。右手だけで胸を張って握手していたのだ。富澤も初めは両手でしていたとしたら、元編集長(や、もしかしたら他のイギリス人)の様子を見て短時間で向こうのやり方に順応したことになる。お笑い芸人ならではの観察力と瞬発力のなせる技なのかなと感心したのだった。