高齢者の”せん妄”に注意!

「いよいよ来たか、認知症」と思った。あまりにも突然の父の壊れっぷりに、こっちの気持ちがついていかなかったが、それ以上に介護がきつくて体がついていかなかった。結論から言うと、認知症ではなく(心原性の脳梗塞を繰り返しているし、もうすぐ86歳なので認知機能の衰えはある程度あるが、今のところ日常生活に支障をきたすほどではない)せん妄だったのだが、ショックな出来事だった。せん妄とは高齢者には特によく見られる急性の意識障害で、病気や痛みなどのストレス、薬剤などが原因になる。認知症と間違われやすいという。父の場合は、脊柱管狭窄症と腰のヘルニア用の痛み止めが主な原因だったようだ。

 

元の元をたどって、あれさえなければと思うのが、ちょうど一年前の胆振東部地震だ。地盤の緩い地域にある我が家は傾きこそしなかったものの、地盤沈下で家の周りは穴だらけになった。一部外れた台所の下水管を5月に一度修理したが、その先の汚水枡も傾いていて詰まりやすいので、外の下水管も汚水桝も入れ替えることにした。かなり大掛かりな工事で、丸5日かかった。よりによって、記録的な暑さが続いた7月の末から8月の始めにかけてのこと。

 

このときの異常な暑さで、家庭菜園の野菜は毎日夕方に水やりをしないと干からびるのは確実だった。しかし、外の蛇口は工事の関係で使えない。それで、家の中でバケツに水を汲み、ベランダから運んで水やりをすることにした。外は私がやり、水を汲んでベランダまで何度かバケツを運ぶのは父にやってもらった。それを2日やった。たぶんそれが悪かったのだろう。父は元々軽度の脊柱管狭窄症を患っていて、翌日から腰から右脚にかけて酷く痛むようになった。

 

レントゲンで見たところ、数年前より脊柱管狭窄症が悪化しているとのこと。高齢なので手術はあまり勧められないということで、貼り薬とロキソニンを処方され、リハビリに通いながら様子を見ることになった。薬はどちらも効かなかったが、たまたま2日後に行った脳神経外科で「ロキソニンはワーファリン(抗血栓薬)の効きを強めるので、できれば飲まないように」と言われ、どっちみち効かないのでロキソニンは中止した。それからしばらくは貼り薬のみ。起床後数時間は少し痛みが少ないが、基本的には立ち上がるのにも顔をゆがめ、移動は杖をついてトイレに行くのが限界。リハビリでも仰向けに寝のを痛がり、座ったままの筋トレを少しやるだけ。このままでは寝たきりになるので、手術も念頭に入れMRIを撮ったら、ヘルニアも見つかった。幸い、吸収されるタイプのヘルニアだという。

 

痛みが一向に引かないので、ロキソニンの代わりに出されたのが座薬とトラムセットという鎮痛剤だった。この日(木曜日)の夜からトラムセットの服用を初めた。効かなかったが、金曜、土曜と飲み続けたところ、日曜の朝から父の様子がおかしくなった。

 

パジャマを半分脱いだ状態でぼんやりとベッドに腰掛けている。服の着方がわからないらしい。パンツを履く前に股引を履いてしまい、パンツを履かせようとしたら、一つの穴に両足を入れてしまう。シャツ類は全部後ろ前。「後前だよ」と言うと「反対になってるのを買えばいいだろ」と、冗談なのか本気なのかわからないことを言っていた。痛みが酷く、立ち上がるもの辛いので座薬を使う。効き目あり。かなり楽になったようだ。補聴器を手渡すと食べようとしたり、食事中はコーンスープをお箸で食べようと苦戦していたり。

 

月曜日の朝食後にトラムセットを飲ませてから「ボケているのは、もしかしたらこの薬のせいかも」と思い、電話で薬局に相談した。中止した方が良いと言われ、ここでストップ。薬が抜けるのに一日程度かかると言われる。座薬使用で痛みは減っていたが、この日の午後から下痢が酷くなる。下痢のため、座薬も止める。

 

火曜日。杖をつきながらのヨタヨタ歩きではあるが、家の中を移動する程度の距離ならなんとか歩ける。痛みはこの一か月で一番良い。しかし下痢が止まらないので内科を受診。胃腸炎との診断。一応、急に酷い認知症的な症状が出ていると医師に話したが「トラムセットでそのようなことはありません」と、あっさり否定される。私が薬局に薬を取りに行っている間、父は母と一緒に病院の待合室で待っていたのだが、外を見て「ずいぶん雪が降ったなあ」と言っていたそうだ。おむつをしてはいたが、トイレに間に合わないことも何度か。深夜も下痢で頻繁にトイレに行くため、転倒が心配で、私は就寝時2階の自分の部屋のドアを開けっ放しにして、杖をつく音がしたら降りて行っていた。この日からトイレの後で水を流さなくなったので「お父さん、トイレの後は水を流してね」と言うと「どうやってやるんだ?」痛み止めを止めてほぼ2日経つのに。。。トラムセットの副作用ではなかったのか。。。 

 

水曜日の朝。父の様子が変わっている。服もちゃんと着れるし、脱いだパジャマは以前のようにきちんと畳んで枕元に置いてある。日曜日から火曜日まではぐちゃぐちゃのまま放り出していたのだ。受け答えも前日までとは違ってしっかりしている。

 

この日は整形外科と脳神経外科の受診日。整形で診察に呼ばれる前に看護師にせん妄らしきことがあったことを伝えると、診察時に医師は「具体的に教えてください」。いつから服用を始め、いつ止めたか。いつからどんな症状が出て、いつまで続いたか、といったこと。医師の知る限りではトラムセットでそのような症状が出たことはなかったようだが、神経に作用する薬なので、脳に影響が出ることも考えられるというようなことを言われた。内科では薬との関係を否定されていたので、単なる認知症であって、薬のせいではないと言われる覚悟もしていたが、丁寧に対応してもらえて安心した。医師が父に「今のお話のような事、ご自分では覚えていますか?」と訊ねると、父は「いえ、全然覚えていません」。内科(初めての病院)に行ったことすら覚えていなかった。一応脳神経外科でも話してみたところ、「トラムセットは麻薬系の薬ですから。。。」と。

 

この薬の”よくある副作用”ではないのだろう。父の場合は身体に関するいろんなストレスが重なっていたところに服用した薬が引き金になったのではないかと思う。心臓の手術を控えた不安(心理的な負担になっているようなので、やめることにした)に加え、一カ月前からは腰と足の痛み。悪い事は重なるもので、ヘルニア等を発症したのとほぼ同時に奥歯が割れた。ろくに歩けない状態で、整形外科、脳神経外科に加えて歯医者通いも始まっていた。とにかく毎日病院通い。私も父の病院に付き添い、母の病院の送迎、普段の家事に加えて下痢で洗濯の回数も増え、最後の2日は睡眠もとれなくなり疲労困憊だった。4日目で回復してくれて、ギリギリ助かった。

 

父がせん妄から回復して、今日で一週間。車での病院通い程度なら院内では車椅子も必要ない程度に歩けるようになった。希望が見えてきたせいか、表情も明るくなり、以前のように冗談もよく言うようになっている。私も普通に睡眠がとれるようになり体力も戻った。が、今回のことで、将来また何かあったら共倒れになりかねないという危機感を覚えた。介護保険の区分変更見直しを含め、ショートステイなどの利用も視野に入れ、対策を検討中なのである。