アルバニアの小説  「夢宮殿」 / イスマイル・カダレ

名門一族の出のマルク=アレムは学校を出てから「夢宮殿」という役所に勤め始める。国民憧れの職場でありながら、その仕事内容は外部の人間にほとんど知られていなかった。

「夢宮殿」で収集して内容を解釈された国民の夢はお告げとして国政に利用されていた。初めのうちは夢に関わるだけの毎日にうんざりしていたマルク=アレムだが、いつしかその世界に埋もれ、彼にとっては夢が現実に勝るほど重要性を帯びていく。

 

小説自体が夢の中の話のようだ。朝、暗いうちから仕事に出るマルク=アレムの目に映るのは暗く濡れた石畳の街。謎めいた上司に、奇妙な仕事内容。宮殿の内外での不穏な動きに噂は広がるが、結局それが何だったのか知らされることはない。理不尽な処罰や逮捕になす術もない委縮した人々の様子からは独裁政治の恐怖が伝わってくる。アルバニアの情勢に詳しければ、この国の独裁政権を批判する内容ととれるらしい。アルバニアのことを知らない私は、幻想的なディストピア小説として読んだ。